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射出成形による導光板の薄型・軽量化への取り組み

加藤技術士事務所  所長 加藤秀昭
1.はじめに
 私が、永く勤務したエンプラスは、創業55年の精密射出成形メーカである。成形メーカでは数少ない、独立系の東証一部上場の企業である。エンプラスは精密な射出成形品の金型・成形を得意として、あらゆる産業・業界に参入している。精密で難しい射出成形品であれば、どんなことでも他社に先駆けて開発・量産してきた会社である。その会社で私は液晶バックライト事業に関連した仕事を約30年間経験してきた。
エンプラスの成形品の紹介
その間、液晶パネルビジネスは目覚ましい発展を遂げて、ノートパソコンを中心に携帯電話、デジタルカメラなどのモバイル機器には無くてはならない製品を数多く産出している。そのようなビジネスに永く従事できたことに感謝しつつ、過去の記憶をたどりながら、導光板の発展、成形導光板の薄型・軽量化への取り組みについて触れたいと思う。
私が、バックライト開発に関係したのは1988年頃であった。その当時は白黒液晶パネルが世に出て騒がれはじめっていた時代であった。私は会社の開発部門で担当者としてバックライトの開発の仕事を始めた。
最初に量産したバックライトは、外径φ8oのCFL(冷陰極管)を2本使った画面サイズ6インチ程度の直射式バックライトであった。当時の直射式バックライトはライティングカーテン方式が主流であったが、独自の方式を開発して量産した。(ライティングカーテン方式は2000年代になってCFLを使った大型テレビ用直射式バックライトの薄型化の対策として多く採用されていた)。そのバックライトは、1989年に白黒液晶パネルの日本語ワープロやラップトップパソコンに搭載された。移動可能なモバイル製品の原型的なものであった。販売されると市場からは、当然のように軽薄短小の製品要求が強く求められるようになり、そのためバックライトへの薄型化の要求から導光方式のバックライト開発が始まったのである。
それからの液晶パネルの進歩は激しく、STN白黒液晶からTFTカラー液晶へシフトし、サイズも当初5~6インチくらいだったものが10インチサイズを超えて14インチ、15インチが量産されるようになっていった。そして、現在は80インチ以上の大型液晶テレビが販売されるようになっている。液晶パネルのアプリケーションは当初、現在のノートパソコンの前身の形態であるラップトップパソコンが主なアプリケーションであった。1993年頃には、多くの液晶搭載のノートパソコンが市場に出されるようになっていた。2000年頃からはデスクトップ型のモニタ用途に液晶が使われるようになり、2005年頃には大型テレビが液晶に代わり、2012年にはブラウン管型のテレビの生産が終了してしまった。
2.導光板の開発
 はじめの導光板は現在のような成形導光板ではなかった。透明な平板アクリル板に光学パターンを厚膜印刷したものであった。この方式がその当時、最高レベルのものであったと思う。導光板のサイズは6インチくらいで厚さが6o、短辺2灯方式の導光板であった。当然、その導光板を射出成形することは検討したが肉厚6oと平板注型品からの切削ではコスト的に難題であった。それ以上の難題は厚膜印刷した光学パターンの金型への加工方法とその転写技術であった。印刷以上の発光効率を得る方法が見つからなかったのである。
その後も、導光板の薄型化の要求は続き6oから4o、3o、2oと薄くなっていった。しかし、導光板の厚さは光源(CFL)からの光の入光効率に影響する。単純に導光板を薄くすると、バックライトの明るさは導光板の厚さに比例して暗くなる。
導光板の紹介
液晶パネル製品が市場に多くなると、バックライトの存在も世の中に認められバックライト関連部材・産業もある位置を占めるようになり、いろいろな部品・部材メーカがバックライトに向けた開発を積極的に展開するようになっていた。その中で導光板の薄型化への重要な役割を果たしたのがCFLの細管化の開発である。現在はこのCFL(冷陰極管)事業はLEDの存在と拡大でかなり縮小されているが、当時1990年代のCFL細管化の進化は目覚ましいものであった。外径寸法φ8oをスタートに6o、4o、3o、2o、1.6oと1年から2年で世代交代していった。この光源の細管化と導光板の薄型化がどのように関係したかを述べる必要があると思うが、先に述べたように導光板厚さは明るさに影響する。しかし、導光板の厚さと光源の外径がほぼ同じ寸法であれば入光効率は同じである。さらに、光源のCFLの外径が細くなると、それに反比例してCFLの表面明るさが向上する。これはCFLが細管になっても投入電流値が同じであるため、CFL全体の発光量が同じであり、細管化でCFLの表面積(円周)が比例して小さくなるため、CFL表面の明るさは細管化に反比例して明るくなるのである。このような関係から、CFLを細くすることで導光板の薄型化が可能になり、光の導光板への入光効率を低下させずに明るいバックライトが開発できたのである。
もう一つ1990年代にバックライトの明るさ改善に大きな影響を与えたのは3M社の輝度上昇フィルム「BEF」プリズムシートの出現である。最初は液晶用途に開発されたものでは無かったと思うが、バックライトの上にプリズムシートを置くだけで、液晶パネルの必要とする正面方向に集光させた光を20〜30%向上させた、更にもう1枚置くことで同じ効率改善ができ、2枚配置で50〜70%向上した。このことで各社、パネルメーカもバックライトメーカも明るさ改善、薄型化などに大きな効果を発揮した。そしてほとんどの液晶パネルに搭載されるようになっていった。但し、バックライトの生産歩留まり・収益率を大きく悪化させた原因のひとつであったことも言っておきたい。また、プリズムシートを独占的に3M社が製造販売できるようにしたのは優れた特許戦略の結果であったと思う。
3.成形導光板の開発
 導光板は液晶パネルの薄型化の要求から導光板の薄型化開発が促進されていった。導光板が薄くなると成形品として考えた場合、成形品の肉厚が適切になり一般的な成形品と同じ製品設計が可能となった。また、長年研究開発していた導光板用光学パターンの金型加工技術が完成し、印刷を超える発光効率が達成できたのである。その当時、自社の印刷品との明るさ比較で5~10%の効率向上できていた。1993年頃のことであったと思う。その金型加工技術の完成と、エンプラスの基盤技術の金型技術・成形技術を向上させて、印刷を必要としない印刷レスの成形導光板が完成できたのである。プリズムシートの出現で導光板の発光効率をあまり要求されない時期もあったが、プリズムシートが普及し終わると、やはり各部品の効率向上は必要であり、発光効率が印刷タイプより向上したことで、顧客での成形導光板の認知度を大きく向上させることができた。
ここで エンプラスは技術情報をほとんど公開していない。特に成形・金型技術は門外不出が厳命であるので、詳細は述べられないことを理解して頂きたいと思う。
一般的なことを述べると、成形導光板の大きな技術的課題は導光板の面光源デバイスとしての光学仕様と成形品としての仕様の両立と、光学部品としての透明成形品の量産工程での作り込みであった。面光源デバイスの仕様は寸法や外観だけで評価できるものでなく、バックライトに組み込んだ状態でその要求仕様を満たすことである。バックライトユニットを開発し量産した経験が、導光板の仕様を決定するのに大変に役に立った。また成形導光板の完成だけにこだわり、印刷導光板の開発・量産の経験無くしては開発は先行できたとしても、導光板を光学成形部品とて他社より先に量産までつなげることはできなかったと思う。
成形・金型の技術面では、ランナー・ゲートの導光板への最適設定、成形品突き出しの最適設計、温調・成形機のカスタマイズ化(専用機械化)、そのほか成形品取り出し後の工程設計も透明成形品である導光板の課題であり安定的な量産に重要であった。
4.散乱導光板の開発
 次に、軽量化・薄型化を目標に開発したのが散乱導光板である。1996年頃に散乱導光板は従来導光板のバックライト方式と異なる形態で完成した。業界では「PSP-LGP」と呼ばれ2000年代初めは独占的に販売できた製品である。ノートパソコンや液晶パネルの生産量も増え、軽量化・薄型化・低消費電力の要求は継続していた。更に、韓国企業からの参入も始まっており、技術的には日本メーカが先行していたが市場競争は厳しくなっていった時代である。
この散乱導光板は、成形材料に慶応義塾大学の小池教授が開発された高輝度光散乱樹脂(HSOT)を使用している。この高輝度光散乱樹脂は強い前方散乱を発生させる散乱粒子を透明アクリル樹脂に添加し、アクリル樹脂内部で前方散乱を発生させた。この前方散乱の原理を導光板に応用し、小池教授との数年間の共同研究の成果として完成したのが散乱導光板である。それまでの導光板は導光板背面に光学パターンの印刷や粗面化処理を施して、その処理された箇所で導光板内を導光した光を拡散させていた。この光学パターンで拡散した光を利用してバックライト面上で均一な面光源デバイスになるように設計されていた。前方散乱は拡散と異なり狭い角度範囲内だけの拡散光になり、無駄な方向への光が少なく損失を大きく低減できた。導光板から出てくる光の状態が異なるため、また光の高効率を維持するために下向きプリズムの方式を採用した。その結果、従来の導光板の上に配置する3枚構成の拡散シート、プリズムシート、プリズムシートから、下向きプリズムシートを1枚だけの散乱導光板のバックライトユニットが完成した。散乱導光板は従来の導光板に対して、発光効率が30~40%向上し、更にシート数を3枚から1枚に削減できたのである。このことで、薄型化・軽量化が可能になり、他社メーカとの差別化ができ優位な事業活動ができた。
以上のように、導光板は液晶パネルの厳しい要求仕様に対応するために導光板だけでなく、関連部品の開発・発展の成果として薄型化が可能となり、導光板も変化していった。

散乱導光板の特性
5.LEDレンズの開発
 現在、エンプラスは導光板に代わるバックライト関連ビジネスとして、大型液晶テレビ用途のLEDレンズを開発して量産している。
本製品はLED搭載液晶テレビの直射方式バックライトに採用されている。製品はLEDから出た光を拡大、拡散し液晶パネル背面の拡散板で、複数個のLEDの光が重なってもバックライト全体で均一な面光源となるようにレンズ設計されたものである。本製品は直射式の大型液晶テレビ市場において幸いにも50%以上のシェアを確保できる製品に成長している。
技術的コンセプトはバックライト開発品で最初に量産した直射方式バックライトが基本である。2000年代になって、白色LEDの大量生産が始まり、バックライトの光源もいずれはLEDに変っていくとの話を受け検討を始めた。導光板方式の大型液晶テレビへの限界も感じ、直射方式の限界も理解して、直射方式バックライト開発を開始した。
それまでの経験から、その時々に液晶用バックライトに何が要求されるか、市場要求がどのように変化して行くかなどを、漠然とであるが予測できたことは良かったと思っている。
最初に直射式バックライトを上市し、その後のバックライト開発も他社に先行して進めれられた経験が活かせたと思う。また、成形品として考えると、エンプラスにおいて過去に実績あるコンパクトディスクや携帯電話用途のプラスチックレンズの開発・大量生産技術の基盤があったことで、このLEDレンズは液晶ディスプレイビジネスの急速立上・拡大に対応できたのであると思う。過去の経験・技術は強い製品を作るのに必ず役立つものである。
LEDバックライト LEDレンズ
6.終わりに
 ここまでいろいろと書いたが、導光板の薄型化はバックライト関連部品の開発の成果であって、導光板だけで達成できたとは思っていない。また、成形導光板が他社に先駆けて完成できたのはエンプラスの基盤技術の延長であったから達成できたと思う。2000年代になると、他社もバックライトや導光板メーカの開発努力の結果、素晴らしい成果を出している。
私は各所で述べているが、成形品に対して顧客はベストな製品設計はしていないし、その時間もないと思う。やはり成形品に対して最適な製品設計・金型設計ができるのは成形メーカであると思う。またその最適設計はメーカ毎に違ってくる。
最後に 約30年間、液晶パネルに関連した開発・事業に携われたことに感謝し、またその間、いろいろな方々にお世話になったことに感謝して私の寄稿をおわりにする。
以上
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