加藤技術士事務所

   新しく「オンライン相談」を始めました。
          よろしくお願いします



ホーム 運営方針 プロフィール オンライン相談 成形加工 コンサルタント
 

  成形加工

戻る
プラスチック光学素子の加工について
Processing of Plastic Optical Parts
加藤技術士事務所 加藤秀昭
keywords: pastic lens/ diffraction grating/ light guide panel
1.はじめに
 現在、光学部品はIT産業の発展とともに急速に普及し、技術開発も進み、その応用される分野も急速に拡大している。 幾何光学を主体とした高精度レンズは望遠鏡、顕微鏡、銀塩カメラ、現在はデジタルカメラから携帯電話へ、さらに先端的な超高精度な ステッパーなどに応用され、回折光学の回折格子やホログラフィー素子はCD、DVDなど光記憶媒体への読み取り、 書き込みのピックアップデバイスに応用、先端分野では光通信の光リンク部品などの研究が進められている。
光学部品の精度は、汎用的な製品でも数μm程度が必要であり、超精密分野では数nmレベルの加工、組立・調整、評価技術が必要となる。 それらの技術を支援する装置も多くのメーカから製造・販売されている。但し、これらの装置は高精度のため、たいへん高価なものとなっている。
 また、近年は数百nmレベル以下の超微細な領域の研究開発も盛んであり、そのデバイス開発も重要性が増してきている。 この領域は加工限界に近い分野であると思われるが、更なる技術開発を続け高精度化に対応していかねばならない。
このように加工の高精度化と部品の高機能化を継続的に続け、高価な設備投資に見合った利益率の高い製品開発を続けなければならないのが オプトデバイスの製造メーカの使命と考える。
2.プラスチックの光学デバイスへの応用
 光学デバイスは光学ガラス材料で作られるのが普通である。光学ガラスは200種類程度が実用化され、屈折率と分散(アッベ数)の範囲が広い、 そして光学的に等方性であり、広い範囲で製品に応用されている。
光学プラスチックの屈折率とアッベ数
図1 光学プラスチックの屈折率とアッベ数

それに比べてプラスチック樹脂は耐熱温度が低く、温度特性の屈折率温度変化や線膨張係数はガラスに比べ10倍以上大きい。 したがって、広域な温度領域での設計が困難であり、温度変化により光学特性が悪くなる。
表1 透明樹脂の屈折率温度係数と線膨張係数
透明樹脂の屈折率温度係数と線膨張係数

そのプラスチックのメリットは加工性の容易なことである。この加工性の良さで大量に生産、消費される製品・部品に採用されている。
プラスチックの光学デバイスへの応用には、プラスチック材料のディメリットとメリットを如何に融合させ実際の製品で、 マーケットに認められる製品(部品)まで完成させることである。使用環境は材料自体の特性(耐熱性の低さから)から限定されてしまうことが多いが、 光学特性は加工性の良さから設計自由度の狭さを補い、さまざまな製品に応用され、ガラス材料の代替でない製品開発も大きく進歩している。 今後、ナノスケールの構造体などは加工性の良さからガラスよりプラスチック材料が優位に展開されると期待できる。
3.光学デバイスの射出成形加工技術
 光学デバイスの射出成形金型は、高精密な成形品の金型と比較すると1桁以上の高精度加工が必要となる。 また、プラスチックの加工の容易性を確保するためにも金型精度が高ければ高いほどプラスチック材料の不安定さが補える。
金型精度は光学面だけでなく、金型全体、例えばモールドベースのガイドピンのピッチやクリアランス精度など、 ランナー、ゲート形状の加工も高精度に仕上げる。そして温調設計も重要である。
成形加工では、光学部品の高精度の維持のほかに、プラスチック材料の光学的ひずみである複屈折を抑えることである。 複屈折はプラスチックの流動分布、温度分布による内部応力から発生する。また、取り出し時の外部からの応力の影響も無視することはできない。
光学面の加工精度は製品仕様の光学特性を維持するために形状精度(0.01〜0.05λrms)と面荒さ精度(Ra 5nm以下)の両方が要求される。 この両精度を作り出すためには非球面レンズ加工専用の超精密旋盤加工機などの設備が必要である。また、回折光学系の光学面加工は 半導体技術のリソグラフィー技術により、シリコンマスター加工、Ni電鋳などの工程が必要となる。
4.照明光学系のデバイス開発
 照明光学系デバイスの代表的な製品は、ノートパソコン用液晶表示装置のバックライトがある。現在、ノートパソコンに多く採用されている バックライトは導光方式である。その部品の導光板(LGP)がプラスチックで製造されている照明光学デバイスのひとつである。 この導光板は光源(CFL)をサイドに配置して、線光源を平面光源へ変換するデバイスである。
導光板に求められる機能は、変換効率の高さと面光源としての均一性である。この要求機能を満たすために各社特徴をもった 様々な設計手法で効率向上を図っている。製品大きさはレンズなどと異なり液晶画面サイズに対応し、現在の主流は15インチ (縦233mm×横308mm×厚さ2.2〜0.7mm)である。この製品サイズはL/tが150以上もある薄肉成形品である。金型加工の課題もあるが、 やはり成形加工の難易度が高く、成形機メーカは導光板専用機を製造・販売している。
導光板の技術的課題は製品表面への転写性である。導光板の表面形状は各社の特徴があり、この形状を設計意図通りに成形転写させなければならない。 この転写状態は光学特性にも影響するが、品質基準の「画面品位」といわれる目視判定に大きく影響する。 転写精度を良くするために金型温度を上げ必要があるが、成形品の変形、精度には悪くなり、また成形サイクルも伸び、生産性は悪くなる。 成形上の課題はこの転写の安定性を維持させることである。
このように背反する課題があり、導光板を製造するためには、成形条件と金型加工、光学設計の3つの要素技術のバランスをうまく取った 設計・技術を必要とされる。
5.まとめ
 プラスチック光学デバイスの製造についていろいろと記述したが、良い光学デバイスを作るためには物理特性・加工特性の安定した プラスチック材料を選定し、光学設計、金型加工、成形加工のバランスを取りながら最適設計を実践していくことが重要であると思われる。
参考文献
1)金原編「応用物理ハンドブック」丸善(2002)
2)井手文雄編「プラスチック機能性高分子材料辞典」産業調査会(2004)
3)久保田編「光学技術ハンドブック」朝倉書店(1975)
4)プラスチック成形加工学会編「先端成形加工技術」シグマ出版(1999)

PDFプラスチック光学素子の加工について

戻る
Copyright © 2018 加藤技術士事務所 All rights reserved.